こんにちは。有限会社ツーボックス イベント運営部の河野です。
私たちは25年にわたり、展示会や野外フェス、周年式典といったイベントの企画・運営を手がけてきました。東京・札幌・名古屋・大阪・福岡・沖縄の6拠点で、年間を通じてさまざまな現場に立ち会っています。
イベント運営には、毎回のように繰り返される課題があります。そのひとつが「参加者から数多く寄せられる問い合わせ」です。
そんな課題を解決したいと考え、私たちが注目したのが Adobe Acrobatの「PDF スペース」です。複数の資料をPDF スペースというワークスペースにまとめ、その内容についてAIに質問できるこの機能は、イベント参加者への情報提供にも活用できるのではないかと考えました。
本記事では、私たちが実際に抱えている課題から、AIを活用したその解決法までをお話しさせていただきます。
※今回の記事はアドビ社のPR企画「みんなのAI活用」に参加して執筆しています。
イベントの種類が違っても、寄せられる質問には共通点がある
イベントの開催が近づくと、参加者からの問い合わせが増えます。だいたい2週間前あたりからカーブが立ち上がり、前日から当日にかけてピークを迎えます。
たとえば、展示会の前日にかかってきた一本の電話。
「明日、荷物を預ける場所ってありますか」
参加ガイドPDFの7ページ、右下のQ&A欄にクロークの案内を記載していたので、そのとおりお伝えすると「すみません、見落としてました」。
こちらも「いえ、分かりにくくてすみません」と返すといったやり取りが、会期前に何度も繰り返されます。
今回社内で、イベント種別ごとに実際によく寄せられる質問を洗い出してみました。そこで改めて気づいたことがあります。
それは、イベントの種類が違っても、お問い合わせいただく内容はよく似ているということです。
| よく聞かれること | 音楽ライブ・フェス | フードフェス | 展示会 | 企業式典・セミナー | POP UP |
| 会場へのアクセス方法 | ● | ● | ● | ||
| 駐車場はあるか | ● | ● | ● | ||
| 入場料・参加費はかかるか | ● | ● | ● | ||
| 写真撮影はしてよいか | ● | ● | ● | ||
| 荷物を預けられるか | ● | ● | |||
| 事前登録・予約は必要か | ● | ● |
音楽フェスに来る方と企業式典に参加される方とでは、目的も年齢層もまったく違います。それでも「どうやって行くのか」「車で行けるのか」「荷物はどうするのか」といった質問は共通して聞かれる事が多いです。
参加者が知りたいのはイベントの中身以前に、そこに行って過ごすための情報なのだと分かります。
もちろん、種別ごとの質問もあります。フェスなら「払い戻しはできますか」「何歳からチケットが必要ですか」、企業式典なら「服装の指定はありますか」「同伴者を連れて行けますか」、POP UPなら「整理券の配布はありますか」といった具合です。ただ、こうした固有の質問よりも、先に挙げた共通項目のほうが件数としては多いというのが実感です。
当日は、1~2名のスタッフが電話やSNSのDMに張り付いて対応します。現場の設営や進行と並行しての作業なので、正直なところ、決して余裕のある体制ではありません。
ただ、私たちが本当に気になっているのは、対応する我々側の負担ではありません。
参加者の方に、余計な手間をかけさせてしまっていることです。
楽しみにしていたイベントの前日に、わざわざ電話をかけて、つながるまで待って、質問して、答えを聞く。その時間は本来、必要のないはずのものです。私たちが情報を届けきれていないから発生している手間だと考えると、申し訳ないという気持ちのほうが強くありました。
情報は出している。それでも聞かれる理由
誤解のないように書いておくと、情報を出していないわけではありません。
公式サイトには開催概要や注意事項のページがあり、参加ガイドのPDFも配布しています。会場マップもアクセス情報も公開しています。先ほど挙げた質問は、ほぼすべてどこかに書いてあります。
ある展示会では、会期が始まってからも同じ質問が続きました。
「駐車場ってどこですか」。
受付に立っているスタッフが、1日に何十回も同じ説明をする。会場マップにも駐車場の案内は載っています。来場者の方は、それを持ったまま聞きに来られます。
書いてあるのに、聞かれるのはなぜか?
私たちは長いあいだ、この「なぜ」の原因は「参加者が読んでくれないから」だと思っていました。でも改めて整理してみると、そういう話ではないことがわかってきました。原因は3つあります。
1. 運営側と参加者の「言葉のズレ」で情報を見つけにくい
これが個人的にはいちばん大きいと思っています。
先ほど挙げたリストは、社内で整理したものなので運営の言葉で書かれています。でも実際に届く問い合わせは、こうした形をしていません。
- 「事前登録は必要ですか」ではなく「予約はいる?」
- 「荷物を預けられる場所はありますか」ではなく「荷物はどこに置けばいい?」
- 「入場整列可能時間」ではなく「何時から並べる?」
- 「整理券の配布はありますか」ではなく「並ばないともらえない?」
従来のFAQページは、基本的にキーワードの一致で情報を探す仕組みです。目次に「クロークについて」と書いてあっても、「荷物 置き場」で探している人には見つかりません。情報があることと、届くことは別なのだと痛感します。
2. 情報が分散している
公式サイト、参加ガイドPDF、会場マップ、SNSでの追加告知。イベントの情報は、性質ごとに別々の場所に置かれています。
たとえば展示会の「出展企業はどこで確認できますか」という質問。出展社リストは特設ページにあり、会場内のブース位置は当日配布のマップPDFにあり、開催概要は公式サイトのトップにある。運営側は全体像を把握しているので不便を感じませんが、参加者からすると、どこを見れば知りたいことに行き着くのかが分かりません。
探すという行為そのものにコストがかかっています。
3. 読み通す前提の資料になっている
参加ガイドのPDFは10ページ以上になることもあります。私たちは必要なことを網羅しようとして丁寧に作っていますが、参加者が知りたいのは、そのうちの「少しだけ」です。
「駐車場あるの?」を確認したいだけの人に10ページの資料を渡したら、多くの人は読まずに聞くほうを選びます。当然だと思います。
こう並べてみると、私たちに足りなかったのは情報ではありませんでした。
必要なのは、探し方を変えることです。
イベント運営の課題を解決してくれるPDF スペース
そこで目に留まったのが、Adobe Acrobatの「PDF スペース」でした。
PDF スペースは、複数のファイルやWebリンク、メモをひとつの場所にまとめ、その資料群に対してAIアシスタントに質問できるワークスペースです。アドビは「AIを活用した知識ハブ」と説明しています。
提案書の比較や社内資料の整理といったビジネス文書の扱いはもちろん、あらゆる情報管理に役立つツールです。機能の説明を読んでいて、これは私たちの3つの課題にそのまま対応しているのではないか、と感じました。
| 私たちの課題 | PDF スペースの機能 |
| 運営側と参加者の「言葉のズレ」 | 自然な話し言葉で質問してもAIアシスタントが関連する情報を見つけてくれる |
| 情報が分散している | PDF・Office文書・テキストファイル・Webリンクを1か所に集約できる |
| 読み通す前提の資料 | 知りたい情報にすぐたどり着ける |
もうひとつ重要なのは、AIが参照するのはPDF スペースにアップロードした資料だけだという点です。Web全体を検索して答えるわけではないので、私たちが公開した情報の範囲で回答が返ってきます。イベント運営において、これは見過ごせない条件です。
では、これを実際のイベント運営に取り入れるとしたら、どう設計するか。以下は私たちの検討メモです。
私たちなら、PDF スペースを使って参加者FAQをこう作る
PDF スペースにすべての情報を集約
まず、参加者向けに公開している資料をすべて集約します。
- イベント公式サイトのURL
- 参加ガイドPDF
- 会場マップ
- アクセス・交通案内
- 注意事項・禁止事項の一覧
- 出展社リストや出店店舗情報(展示会・フードフェスの場合)
PDF スペースはPDFだけでなく、Word、PowerPoint、Excel、テキスト、そして公開されているWebリンクも追加できます。イベント情報はサイトとPDFに散っているので、両方をそのまま投入できるのは現実的だと感じました。
なお、追加できるファイルの形式や容量には以下の上限があります。
■ファイル数と容量上限
1つのPDF スペースに追加できるファイル数:最大100個
1ファイルあたりの最大容量:100MB
1ファイルあたりの最大ページ数:600ページ
AIアシスタントで参加者にもっと寄り添える
PDF スペースでは、AIアシスタントに役割を設定できます。あらかじめ「アナリスト」「インストラクター」「エンターテイナー」が用意されているほか、独自の役割も作成できます。
イベントで使うなら、ここは独自に作ることになると思います。「フェスの案内スタッフ」として、口調も含めてイベントの世界観に寄せる。堅い言葉で返ってくるより、当日の雰囲気に合った案内のほうが参加者の体験としては自然です。
逆に企業式典やセミナーであれば、丁寧で落ち着いた案内が適しています。同じ仕組みでも、イベントの性格に合わせて人格を変えられるのは実用的だと感じました。
参加者の言葉を想定して設計する
大事なのは、運営の言葉ではなく参加者の言葉で成立するかを確認することだと思っています。
- 「予約はいる?」
- 「荷物はどこに置けばいい?」
- 「何時から並べる?」
- 「雨降ったらどうなるの」
こうした話し言葉で聞かれたときに、正しい情報にたどり着けるか。ここが従来のFAQページとの分かれ目になるはずです。
誤案内を防げるか
イベント運営で最も避けたいのは、間違った情報を伝えてしまうことです。「当日でもチケットを買えると聞いた」「再入場できると言われた」といったトラブルは、当日の現場でいちばん揉めます。
その点で心強いのが、PDF スペースの回答には引用元が表示されることです。回答の横にある引用マークをクリックすると、元の資料が開いて該当箇所がハイライトされる仕組みになっています。
アドビもこの機能を「ハルシネーション(AIが事実でない内容を生成すること)のリスクを回避できる」と位置づけています。(参照:https://www.adobe.com/jp/learn/acrobat/web/jp-pdfspaces-overview )
参加者は根拠を確認でき、運営側も「どこに書いてあるか」で説明できます。
実運用に入れるとしたら、資料に書かれていない質問にどう応答するかは事前に確認しておきたいところです。「近くにコンビニはある?」のような、公式資料の範囲外にある質問は必ず来ます。ここで無理に答えを作られると困るので、挙動の把握は導入前の必須項目になります。
また、アドビは公式に、AIアシスタントでのやり取りをAIのトレーニングデータには利用しないと明言しています。イベント資料には未公開情報や協賛社の情報が含まれることもあるため、この点は主催者に提案する際の説明材料としても重要です。
※なお、PDF スペース内の資料は、アップロードした時点の情報となります。もし元のファイルを更新した場合は、再度アップロードし直す必要があります。
公開前のチェックにも使えそう
ここからは、運営会社として機能を眺めていて気づいた副産物です。
PDF スペースは複数の資料を横断して分析できます。であれば、参加者向けではなく運営側の質問を投げることもできるようです。実際にAIアシスタントに聞いてみたところ、「できる」との回答でした。
「このスペースの資料をもとに、参加者が知りたいと思われるのに書かれていない情報を挙げてください」
私たちは毎年同じ形式で告知資料を作っているので、「毎年書いているから今年も書いてあるはず」という思い込みが生まれます。実際には、会場が変わっているのに交通案内が前年のままだった、といったことが起こり得ます。
冒頭で整理した「種別を超えて共通する質問」も、この点で使えます。アクセス、駐車場、入場料、撮影可否、荷物。これらは種別を問わず聞かれるのだから、告知資料に必ず含まれているかを公開前に確認すればいい。AIに横断して確認させれば、その作業は数分で終わります。
参加者向けのFAQとして作ったものが、そのまま運営側の点検ツールにもなる。この二重の使い方ができるとしたら、導入の判断はかなりしやすくなります。
私たちが可能性を感じたのは、知見がチームの「資産」として積み上がること
これまで、参加者からの問い合わせへの対応は、現場に出たスタッフ個人の記憶や対応に頼りがちでした。「今年も駐車場の問い合わせが多かったよね」という感覚は共有されていても、それが翌年の告知資料の改善にまで組織として反映されることは、正直あまりありませんでした。日々の業務に流されて消えていってしまうのです。
今回社内でよくある質問を洗い出し、PDF スペースに集約・整理するプロセスを経て痛感したのは、問い合わせのノウハウや「想定質問と回答」をチームの明確なナレッジとして残し、運用に活かす仕組みの大切さでした。
過去の問い合わせ傾向をもとに、「何がよく聞かれるのか」「資料のどこを補強すべきか」を整理してPDF スペース(や付属のメモ機能)にまとめておけば、翌年の準備の際にも運営チーム全員でその知見を共有・再利用できます。
年次で開催するイベントにとって、これは運営品質が着実に積み上がる仕組みになり得ます。問い合わせ対応を一回きりの作業で終わらせず、ノウハウを組織の資産として蓄積し、毎年少しずつ参加者の不便を減らしていく。
私たちがPDF スペースに関心を持ったのは、単なる一時的なFAQツールとしてだけでなく、こうした運営ノウハウをチームで蓄積・活用するための基盤になり得ると感じたからでした。
まとめ
実際にPDF スペースを作ってみて感じたのは、これは問い合わせを減らすためのツールというより、参加者の体験を良くするための仕組みとして捉えたほうが本質に近いということでした。
「聞かないと分からない」を「聞けば分かる」に変える。しかも参加者は、自分の言葉で、好きなタイミングで聞ける。電話がつながるのを待つ必要も、20ページのPDFを読む必要もありません。
そして質問がデータとして残ることで、翌年の私たちの仕事の精度が良くなる。
イベントは毎年やってきます。だからこそ、一度きりの効率化より、積み上がる仕組みのほうに価値があると私たちは考えています。
PDF スペースは、こちらからアクセスできます。
回数制限はありますが無料で体験できるので、気になった方はぜひお試しください。


